2025年10月26日

直面する不正義と対峙するパレスチナ系オランダ人写真家サキル・カデルの眼差し

Beita
Beita, Nablus, West Bank of the Jordan River, Palestine, 2021
Sakir Kadel

サキル・カデルは1990年11月25日、フラールディンゲンで生まれたパレスチナ系オランダ人ドキュメンタリー写真家である。ヨルダン川西岸地区にあるジェニン難民キャンプ(現在は都市化している)での生活を捉えた写真シリーズに対し、2023年にオランダで最も権威のあるフォトジャーナリズム賞であるシルバーカメラ賞を受賞した。審査員は彼の作品を「写真の質と感情的なインパクトにおいて傑出している」と評価した。アメリカの作家スーザン・ソンタグは、2003年のエッセイ『他者の痛みについて』の中で「1839年にカメラが発明されて以来、写真は死と隣り合わせだった」と述べている。ソンタグの最後の著書となる本書は、戦争におけるイメージ形成の役割をより広く考察し、カメラの背後にいる人物、特に極限の恐怖を描いた場面で果たす役割を綿密に検証している。パレスチナ系オランダ人写真家サキル・カデルのでの展覧会では、イスラエル占領の残虐性の特定の側面が強調されており、ソンタグの言葉の重みが改めて問われる。特にアムステルダムの写真美術館 フォーム の展覧会の制作に役立ったのは「残虐な映像に心を奪われましょう。映像は語りかけています。人間にはこんなこともできるのだ、と。忘れないで」という一節である。この感情は、事実上、証言への行動への呼びかけであり、カデル初の組織的展覧会 "Yawm al-Firak"(分離の日)にも反映されている。

Beita, Nablus
Beita, Nablus, West Bank of the Jordan River, Palestine, 2021

この作品は、ヨルダン川西岸で殺害された7人の若者と、その死を嘆き悲しむ母親たちの物語を前面に押し出している。カデルは2021年から2024年にかけてジェニンとナブルスを訪れ、彼らと親交を深めた男女たちと交流した。「それらは私にとって主題ではない」「彼らは人間であり、友人です。私は彼らの心の中を覗き込み、繋がりを持とうとします。そして、まさにその瞬間を写真に撮りたいのです」と彼は明言する。フォームで展示された写真の多くは白黒で撮影されており、モノグラフ "Dying to Exist"(存在するために死ぬ)に初めて掲載された。このモノグラフでは、赤ちゃんの写真やポラロイド写真を含む500点の写真を通じて、ジェニン難民キャンプで暮らすパレスチナ人の日常生活の厳しさが強調されている。

mothers
The mothers of the Martyrs, Jenin refugee camp, 2023

アムステルダムにあるフォーム写真美術館のキュレーター、アヤ・ムサは「カデルのカメラは証人とツールの両方の機能を果たし、パレスチナをリアルタイムで記録します」「彼の作品は単なる出来事の記録ではなく、不在、喪失、そして記憶との対峙なのです」と語る。「アヤは私にとって兄貴のような存在です」「だからフォームとの仕事はとても心地よかったんです。西洋の美術館なので、最初は戦いになるんじゃないかと不安でした。こんな視点で展覧会を見るのは、一体何回あるでしょうか?」と写真家は、このコラボレーションが展覧会にどのような影響を与えたかを振り返りながら述べている。

Jenin
Jenin Refugee Camp, West Bank of the Jordan River, Palestine, 2023

ヨーロッパやアメリカの無数の美術館やギャラリーが、パレスチナの自由を支持するアーティストたちの活動を封じ込めている今、この展覧会の意義は一層高まっている。カデル自身も、今回の展覧会への招待は、マグナム・フォトからの推薦による副産物でもあると考えている。昨年7月、彼は1947年に パリで設立された歴史ある写真エージェンシー、マグナム・フォトにパレスチナ系写真家として初めて選出されたのだ。サキル・カデルは「マグナムの一員になれたことは本当に光栄ですが、私が見ている世界、私が歩いている世界は、ほとんどのマグナムの写真家のそれとは違っているので、これは彼らにとっても勝利です」とカデルは、自身の中東出身のアイデンティティに触れながら言う。

Refugee Camp
Jenin Refugee Camp, West Bank of the Jordan River, Palestine. 2023

そして「例えば、マグナムがアメリカで手がけた作品を見れば、アメリカのありのままの姿が描かれています。そして、それがマグナムにとっての勝利です。パレスチナを内側から描いているのです。私は歴史を捉え、人々と長期間共に活動してきました。私の作品は生と死に焦点を当てています。それこそが私が貢献しようとしていることです。私たちが生きていること、私たちが耐え忍ぶ痛み、この地域で起こっている不正義、そしてあらゆる困難を乗り越えて生きる人々の強さを見せたいのです。そこには多くの悲しみがありますが、小さな喜びの瞬間もあります」と語っている。下記リンク先は『アパーチャー』誌によるサキル・カデル(1990年生まれ)の写真と記事「パレスチナ人の忍耐のポートレイト」です。

aperture  Sakir Khader (born 1990) Portraits of Palestinian Perseverance by the Aperture Foudation

0 件のコメント:

コメントを投稿