シェイクスピア&カンパニー書店 |
アーネスト・ヘミングウェイ(1899–1961)の『移動祝祭日』(高見浩訳・新潮文庫)を読んでいたら、ジェイムズ・ジョイス(1882–1941)との交遊エピソードが目に止まった。ヘミングウェイは結婚したばかりのハドリーを伴って1921年12月、パリに移住した。そこでジョイスと知り合うのたが、翌年2月2日に小説『ユリシーズ』が、オデオン通りに書店「シェイクスピア・アンド・カンパニー」を構えていたアメリカ人女性、シルヴィア・ビーチ(1887–1962)によって刊行された。20世紀を代表するふたりの文学者が異国の地で親交を温めたことは、当時のパリが芸術家のいわば聖地であったことの証でもあった。パブロ・ピカソ(1881-1973) スコット・フィッツジェラルド(1896-1940)マルク・シャガール(1887-1985)マン・レイ(1890-1976)藤田嗣治(1886-1968)など、巡礼者の名を上げたらキリがない。そういえば『ユリシーズ』を持っていたと思い出し、書架の奥に隠れていた集英社刊、丸谷才一 ・永川玲二・高松雄一訳の3冊を捜し出した。
ユリシーズ I・II・III(集英社) |
今でこそ文庫本化されているが、1996年から翌年にかけて出版されたハードカバーの初版本である。ところがこれは購入したものの、眠らせたままで読んでいなかった。二度にわたるアイルランド旅行のあと、ジョイスの作品に興味を持ち『ダブリン市民 』(安藤一郎訳・新潮文庫)を読んでみたが、途中で放り投げてしまった。何故かその記述に馴染めないものがあり、いささか辟易したと記憶している。しかし今また手に取れば。おそらく違う感触を持つのではないだろうか。この短編集はむしろ読みやすいほうで『ユリシーズ』は難解だと言われている。というわけで入手したものの、何となく億劫になってしまったのかもしれない。しかし今は少なくとも10年前より書籍を読む根気が増したような気がする。その根底には歳を重ねるうちに、若い頃と違って「読まなくては」という心理的束縛から解放され、放棄したときの挫折感が遠のいたのだろう。もしかしたら再び途中で投げ出すかもしれないが、のんびり読み始めてみようかと思う。
ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』文庫版 全4巻完結セット (集英社文庫ヘリテージ 2012年)
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