2024年6月13日

カントリー音楽のフィドルの本を書いたクラシックのヴァイオリン教師マリオン・シーディ

Fiddle Book
The Fiddle Book by Marion Thede, Oak Publications, 1967
Marion Thede(1903-1998)

マリオン・シーディ(1903-1998)はクラシック音楽の訓練を受けたヴァイオリン教師だったが、カントリー音楽のファンだった。素朴なフィドルの歴史に関する登場人物、歌、物語を収録した「フィドルの本」を執筆し、1967年にニューヨークのオーク出版から上梓された。収録曲が150以上に及んだこの曲集はアメリカンフィドルの古典的参考書としてベストセラーとなり、多くのフィドラーや愛好家に多大な影響を与えた。オクラホマシティに住んでいた彼女は1983年、オクラホマン紙のインタビューに「私は州になる前に生まれ、デイビスという小さな町で育ちました」「当時、母はピアノを教えており、私をクラシック音楽と教会の間に閉じ込めていました」と答えている。母親のレナ・ドラウゴンはピアノを教えており、娘がクラシックピアニストになることを望んでいた。「私にはピアノの才能がなかったので、母は賢明にも私にヴァイオリンを習わせてくれました」という。当時80歳だったが、104歳の母親の世話をしながら、8歳から60歳を超える28人の生徒にヴァイオリンを教えていた。「プロの演奏家になるなんて思ってもみませんでしたが、子どもの頃から他の人に教えたいと思っていました」からである。彼女はオクラホマ州の著名な政治家「アルファルファ・ビル」マレーの息子、ジョンストン・マレーと結婚した。1923年、夫妻はボリビアに農業と牧場のコロニーを作るため、ラバと道具を持って南米に向けて出航した。マリオン夫人はヴァイオリンとクラシックの楽譜を携え、原住民を啓蒙しようと考えていた。彼女はそこで初めて民族音楽に触れた。「私たちは1848年に建てられた廃墟となった伝道所に住みましたが、近くの村の原住民がフルートと太鼓で音楽を演奏していました。彼らは私の音楽をとても奇妙だと思ったようです」と述懐。数年後、とあるカンザス州の小さな町でヴァイオリンの演奏を終えた後、ブラウンとだけ憶えているフィドル奏者が彼女のところに来て、カントリーワルツを一緒に演奏しないかと誘った。二人はついにお互い知っている曲をいくつか演奏し、オクラホマ州の小さな町を巡業し始め、エニドのラジオ局でリクエスト曲を演奏することもあった。

Fiddle Book
Sheet Music for Irregular Fiddle Tuning

曰く「私は誰にでも演奏を教えることができます。生徒の中には音符は絶対に読めないと言う人もいますが、音符は生徒の感情や思考と音楽をつなぐシンボルにすぎません」と語る彼女は、耳で聞く方法と楽、譜を読む方法のどちらかで教えていた。彼女は独自の教授法を考案し、常に前向きなアプローチを採用する。レッスンをカセットテープに録音し、生徒に自分で考案した学習ガイドとともに自宅に持ち帰らせた。これにより、レッスンの合間に指の位置を忘れることがなくなった。カントリーミュージックが好きな理由のひとつは観客の笑顔だと言う。自らを自由思想家と称し、1960年代の「フラワーチルドレン」を尊敬している。彼女は「お茶をすする白髪頭」のひとりになることに満足せず、新しいことに挑戦し続けた。オクラホマ交響楽団での26年間の活動を経て引退し、ロートン・フィルハーモニック、タルサ・フィルハーモニック、レッド・ライス・ダンス・バンドで演奏した。天性の演奏家だった彼女は「観客席に座っているのは気分がよくない。私はアクションが起こっているフットライトの後ろにいたい」という老いても盛んな言葉を残している。

Fiddlin' Bill Hensle
Fiddlin' Bill Hensley, Asheville, North Carolina, 1937 ©Ben Shahn

中段掲載の図はフィドルを変則チューニング(C#AEA)した曲の採譜です。上段の譜面通りに弾くと下段の譜面のよう響くという仕掛けである。これはマリオン・シーディが考案した記譜法である。このような採譜作業より、五線譜ならぬ四線譜のタブラチュアで記述したらどうかと思う人が多いだろう。しかしクラシック音楽の素養がある人には、五線譜によるこの方法のほうが分かり易いかもしれない。なお「フィドルの本」の表紙は1937年、FSA プロジェクトのベン・シャーン(1898-1969)が、ノースカロライナ州アッシュヴィルの「マウンテン音楽祭」で撮影した、フィドリン・ビル・ヘンズリーの写真を2諧調化した画像である。下記 YouTube にオクラホマ歴史協会のジョー・L・トッドによる、2時間弱のロングインタビューがアップロードされている。

YouTube  Interview with Marion Thede (1:53:19) | Oklahoma Historical Society Audio Archives

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