2023年6月13日

写真芸術の境界を広げた暗室の錬金術師ジェリー・ユルズマンの神技

Hands with clouds and house
Hands with clouds and house, 1989
Jerry Uelsmann

ジェリー・ユルズマンは、1934年6月11日にミシガン州で生まれたアメリカの写真家である。公立学校に通っていた彼は14歳のとき、写真への好奇心を抱くようになり、写真の力によって、つまりカメラのレンズを通して見える世界を生きることができると考えた。成績は良くなかったが、モデルの撮影に関わる仕事をいくつか見つける。その後、ロチェスター工科大学で学士号を、インディアナ大学で修士号を取得した。1960年、フロリダ大学で学生たちに写真を教え始める。暗室での大規模な作業と同様に、いくつかのネガとともにアマルガム写真を制作している。彼のネガは、作品の中で背景や焦点として繰り返し登場する。O・G・レイランダーのように、最終的なイメージは複数のネガで構成されることがの作品に感じられる。自分の想像力を表現すること以外には何も考えておらず、フォトモンタージュが自分の考えやアイデアをより良い方法で広めるためのチャンネルであると感じていたのである。現在、ほとんどの写真家はデジタルカメラで撮影、ソフトウエアとを使って、数時間でユルズマンと同じ効果を作り出すことができる。しかし当時はアナログの技法を駆使して、信じられないようなものを生み出す奇跡の技が注目された。

Woman levitating above the shore
Woman levitating above the shore, 1986

ユルズマンの現代的な制作スタンスは、写真における芸術の境界を広げることに貢献した。さまざまなデジタルツールがあるが、写真に対する伝統的なアプローチは、暗室の錬金術と本質的につながっているとユルズマンは感じている。テレビシリーズ "The Outer Limits"(ギリギリの限界)のオープニング・クレジットや、スティーブン・キングの "Salem's Lot"(呪われた町)の挿絵版にも彼の写真が使用されている。また、ドリーム・シアターのアルバム "Train of Thought"(思考の列車)にも彼の作品が使用されている。彼の作品は特定の場所を描いているわけではなく、むしろ見る者を複数のフレームで見ることができるようにし、作品の奥行きの中で旅に出るような感覚にさせる。

Journey Into Night
Journey Into Night, 2006

そのため、ユルズマンの作品は正確な解釈の余地を与えないほど、大きく曖昧なアイデアで遊んでいる。想像を絶するもの、超現実的なもの、抽象的なものを同時に作り出すことで、観客の心に響くのだと作家は感じている。そして彼の作品は通常、中間色とグレーの補色を含むモノクロームで構成されている。人工的なものと有機的なものを対比させ、通常、いくつかのフォーカルポイントを使用している。1967年から1970年にかけてニューヨーク近代美術館で個展を開催した。この間、グッゲンハイム・フェローシップも受賞している。また、アメリカの美術大学や研究機関で講義やワークショップを行った。アメリカの雑誌写真家協会からは、写真の分野で幅広く貢献していることが認められた。

Self Reflection
Self Reflection, 2009

その後、1971年から1973年にかけて、ロンドンの王立学会に招かれ "Some Humanistic Considerations of Photography"(写真に関するいくつかの人間的考察)という講演を行った。この頃から、ヨーロッパ各地で講演を行うようになる。またアメリカの国立芸術基金授与される。さらに英国王立写真協会のフェローとなる。フランスで開催されたアルルの「第4回国際写真展」にも参加した。さらに、出版デザイナー協会からは "Merit Certificate"(功労者賞)アメリカン・グラフィックアーツ協会からは "Excellence Certificate"(エクセレンス認証)を授与された。写真集 "Silver Meditations"(銀の瞑想)は彼の主要な単行本で、ピーター・C・バネッドがその序文を書いている。2022年4月4日、フロリダ州ゲインズビルで死去、87歳だった。

MoMA  Jerry Uelsmann (1934–2022) | Works | Exhibitions | Publications | Museum of Modern Art

0 件のコメント:

コメントを投稿