2013年8月14日

美麗願望神頼みと人の世のはかなさ

鏡絵馬  河合神社(京都市左京区下鴨泉川町)

絵馬といえば、五角形のものが多いが、これはかつて、板の上に屋根をつけていた名残りからそうなったという。昨今では様々な形がある。上賀茂神社の摂社である片岡社の縁結び絵馬は葵の葉ををデザインしたハート形である。伏見稲荷大社の絵馬は白狐をデザインしたものだが、漫画「賭博黙示録カイジ」の主人公に似てなくもない。写真は下鴨神社摂社で、糺の森の中にある河合神社の「鏡絵馬」である。主祭神は初代天皇である神武天皇の母、玉依姫命(たまよりひめのみこと)である。美人祈願の社としても有名で、手鏡の形をした絵馬に参詣者化粧を施す仕掛けになっている。新古今和歌集」に
石川や瀬見の小川清ければ月も流れをたずねてやすむ
という歌があるが、これは鴨長明が詠んだもので、「瀬見の小川」とは、現在も河合神社の東に流れる川のことだそうである。鴨長明は河合神社の禰宜の息子として幼少時代を過ごしたからである。五十歳のときすべての公職から身をひき大原に隠遁、その後流浪の末に、人の世の無常とはかなさを随筆「方丈記」に著した。方丈の広さは一丈(約三メ-トル)四方、土台の上に柱が立てられて、移動に便利なようにすべて組立式となっていたという。下鴨神社の本殿もまた土居桁の構造で、建物の移動ということを念頭においたものである。それはともかく、鴨長明のゆかりの社が、現代では女性の美麗願望を神頼みする、現世利益の神社であることが面白い。

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