2018年1月23日

生物多様性と米国南部バプティスト教会

ホーリネス教会の礼拝(ケンタッキー州ペリー郡レザーウッド)©1960 John Cohen

『創造』(紀伊国屋書店)
生物学的多様性に関する古典的名著であるエドワード・O・ウィルソンの『生命の多様性』(岩波現代文庫)に続いて、同じ著者の『創造:生物多様性を守るためのアピール』(紀伊國屋書店)を手にした。訳者の「日本の読者のために」が触れてるように、ウィルソンと同郷と設定されている米国南部バプティスト派の架空の牧師(パストール)へ、生物多様性の現在、未来にわたる危機の説明、連携の説得の長い手紙形式で展開されている。ナチュラリストが使う「生物多様性」(biodiversity)と表現している領域が、ここでは「創造」(the Creation)という宗教的な用語で説明されている。従って邦訳副題はいわば日本人向けであって、原文は「地球の生命を救うためのアピール」とあり、微妙な差がある。これは第一部第一章「南部バプティスト牧師様への手紙」を読むと理解できる。米国におけるファンダメンタリスト(原理主義者)は聖書の記事を文字通り絶対的真実だと主張、進化論を排斥している。旧約聖書「創世記」第一章26節は、神はまた言われた「われわれのかたちに、われわれにかたどって人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう」と説いている。あなたは人間が下位の生物から進化したとする科学の結論を拒否するだろう、とウィルソンはパストールに問いかける。しかし存在はすべて我々が創り出すもので、天国も地獄もそうである。人間性はこの地球で数百万年の進化を通し、下位の生物を起源とするとウィルソンは説く。ヒトの祖先はサルに似た動物であると説得する。

Smithsonian Folkways SF CD 40077
ウィルソン自身はアラバマ州の南部バプテストとして育っている。前述した通りこの手紙のあて先は架空のパストールだが、南部バプテスト教会に向けたものあることは明瞭である。しかし今更なぜ進化論を強調するのだろうか。ある世論調査によれば、米国人の60%が新約聖書ヨハネ黙示録の予言を信じているという。このようなクリスチャンにとっては、他の生命体の運命などは取るに足らないに違いない。しかし科学者は、今世紀末には地上の動植物の半分が絶滅するか、絶滅を回避できない運命に晒されると推測、今世紀最大の課題はまさにその人間以外の生命を可能な限り保全することだと主張。宗教と科学の連携が実現すればその課題が解決される。だから宗教者の支援が必要なんだとウィルソンは説いている。右派キリスト教原理主義の傾向が強いとされる南部バプテスト連盟は、米国南部を起源とするバプテスト教派の一派で、本部はテネシー州ナッシュビルにある。書籍あるいはネットから吸収した知識以上のものは持ち合わせておらず、解説する技量は持ち合わせていない。しかしひとつの思い出がある。学生時代に購入したフォークウェイズ・レコードの "Mountain Music of Kentucky"(1960年)を忘れることができない。ニュー・ロスト・シティ・ランブラーズのジョン・コーエンが、1959年にフィールド録音したもので、ロスコ―・ホルコムなどの演奏の他に、ケンタッキー州ジェフのバプテスト教会で参列者が歌った "Amazing Grace"(アメイジング・グレース)が収録されていたからである。無伴奏で斉唱されたその響きは、私が持つ讃美歌のイメージと異なり、いわく表現し難いものがある。コーエンは写真家でもあり、挿入された教会内部の写真も印象深い。オリジナルはアナログLP盤だが、1996年に曲数を増やした2枚組CD復刻盤がリリースされた。

audio
"Amazing Grace" Sung in the Old Regular Baptist Church at Jeff, Perry Co., Kentucky, 1959 (6:26)

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