2017年9月19日

ラッパがついたフィドルのお話

Julia Clifford and her sister Bridgie Kelleher, Knocknagree, Co. Cork, Ireland, 1984.

ボストン美術館蔵
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世の中には面白い楽器がいろいろある。写真左はアイルランドのケリー郡出身のジュリア・クリフォード(1914-1997)だが、フィドルに蓄音機のラッパに似た拡声装置がついている。ストロー・フィドルだが、ストローは麦藁を意味する Straw ではなく Stroh と綴る。オーストラリアのラム酒、シュトローと綴りは一緒だが、無論関係ない。フランクフルト生まれでイギリスに移住した電気技術者ジョン・マタイアス・オーガスタス・ストロー(1828-1914)に由来する。ストローは考案した楽器の特許を1899年に取得、息子のチャールズが1901年から1924年まで製造、ジョージ・エヴァンス社も1904年から1942年まで製造販売したという。フィドルばかりではなく、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、マンドリン、はてはウクレレやギターも作られた。音楽レコードの黎明期、蝋管式蓄音機で録音するには大きな音で指向性の強い楽器が必要だった。その要求に応えたのがストロー式絃楽器だったのである。その形状からまろやかな音色が奏でられるとは想像しがたいが、スライゴ出身の伝説の巨星、マイケル・コールマン(1891-1945)も、録音にはこれを使わらずを得なかったようだ。姉のブリッジ・ケレハーが普通のフィドルを弾いているにも関わらず、ジュリア・クリフォードは何故ストロー・フィドルなのか。街頭で開催されたフォーク・フェスティバルなどにも出演していたらしく、その場合は音が大きいのが望ましいので、使用した理由は理解できる。しかし写真は室内で撮られている。いろいろ調べてみたところ、2009年6月6日付けのアイリッシュタイムズ紙の記事に、そのヒントを得ることができた。ジュリア・クリフォードはダン・オコンネル(1921-2009)が1957年にコーク郡ノックナグリーで開店、アイルランド音楽のメッカとなったセットダンス・パブの常連演奏家だったようだ。セットダンスはアイルランドの伝統的なスクエアダンスであるカドリーユをルーツとしたフォークダンスで、爪先やかかとでたてる打撃音を伴うのが普通である。床から響く靴音にかき消されないように、音が大きいストロー・フィドルが使われた可能性が大きい。写真には「コーク郡ノックナグリー」という説明がついているので、このパブで撮影されたと断定できる。これで疑問がひとつ解けたようだ。なおストロー・フィドルはアイルランドやイギリス以外、例えばニューオーリンズの謝肉祭、マルディグラの街頭パレードでも現在使わているようである。

SoundCloud
Chase Me Charlie: Johnny O Leary and Julia Clifford, Recorded in Dan Connells pub, Knocknagree.

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