2017年3月25日

古写真の中の人物名を特定する

Asheville Mountain Music Festival, August 1938
Courtesy of the North Carolina Department of Archives and History

Samantha Bumgarner © Ben Shahn
写真はずいぶん前に写真共有サイト Frikr で見つけたものだが、単に「アッシュヴィルのマウンテン音楽フェスティバル、1938年8月」という説明がついていただけだった。詳細を知りたく投稿者に訊ねたところ、ノースカロライナ州歴史資料館蔵という返答だった。ところが当該サイトを検索したのだが、写真は出てこなかった。しかしバスコン・ラマー・ランズフォード(1882–1973)が組織したマウンテン音楽のェスティバルが1938年、アッシュヴィルで始まったという複数の記述をネットで見つけることができた。写真はその時に撮られたもので、バンジョーを弾く女性がサマンサ・バムガーナー(1878-1960)であることが特定できた。このサマンサがフィドルを弾いている写真を、大恐慌時代の農民を記録した、米国の農業安定局の FSA プロジェクトに参加していたベン・シャーン(1898-1969)が1927年に撮影している(写真左)。なんと彼女のフィドルの顎当ては右側、つまり逆の位置についている。蛇足ながら多くの伝統的フィドラーは顎当てを使わないので、どちらについていても構わないのであるが。

Fiddlin' Bill Hensley © Ben Shahn
よく見ると上の写真のフィドラーもそうである。もしかしたらサマンサは彼のフィドルを借りて写真撮影したかもしれない。写真を Facebook のグループ Dedicated to Old Time Music に「名前不明のフィドラーとサマンサ・バムガーナー」と題してポストした。すると早速「フィドリン・ビル・ヘンズリーじゃないか」という助言があった。これは私にとって電撃的な指摘だった。というのは上記、ベン・シャーンがサマンサの写真と同時にビルも撮っていたのを知っていたからである(写真右)。ただ風貌がちょっと違うので、私は結びつけていなかったのである。写真を仔細に観察したところ、ビルのフィドルの左側には顎当てがなく、ネクタイに隠れてるものの、右側に付いているようだ。かくして上の写真は「フィドリン・ビル・ヘンズリーとサマンサ・バムガーナー」だと断定することができた。古写真は撮影年月日と被写体の説明があれば、歴史資料としての価値が増す。実に些細なことかもしれないが、長い間、アメリカの伝承音楽を愛し、研究してきた私にとっては、大きな収穫となった。

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