2016年8月6日

絶滅危惧種になりそうな氷旗の波千鳥

波千鳥の氷旗(京都市東山区東大路通松原上る)

千鳥がいない氷旗(金閣寺道)
六月に投稿した「ソロー『森の生活:ウォールデン』に繋がるかき氷の旗」でも触れたが、今夏、京都市内で波千鳥を省略したた氷旗をいくつか見た。氷旗はかき氷を売ってることが一目でわかる、お馴染みのデザイン。日本の伝統意匠である「波千鳥」がモチーフになっている。前回「官許氷函館」という旗が原型らしいのだが、画像を見つけることができなかった、と書いたがその点は依然進捗していない。函館五稜郭氷の創業は明治時代に遡るので、現在の氷旗はかなり古くから使われてきたと想像できる。ではなぜ千鳥なのか? 日本で千鳥といわれているのは、野山や水辺で群をなす小鳥の総称で、コチドリやイカルチドリなど、特定の野鳥を指すわけではないそうだ。たくさんの小鳥が群れるから千鳥といわれたり、チチチッと鳴くから千鳥といわれたりする、ということらしい。
波に千鳥の浴衣地
白波の打ちいづるはまの浜千鳥 跡やたへぬるしるべなるらむ
これは後撰和歌集に集録されている朝忠朝臣の恋歌である。白波の現れる浜にいる浜千鳥は、波に足跡が消されるので、あなたとの恋が跡形もなく終わることを示しているのでしょう。古来から千鳥は歌に詠まれてきたが、季節の鳥ではないのに関わらず、あらわれる千鳥はほとんどが冬。そして千鳥の季語が冬であることから、涼を呼ぶという意味で夏の意匠に使われるようになったという説がある。そういえば浴衣地にもこの文様に使われている。しかし氷旗との関係を結びつける資料は見つからない。それはともかく、千鳥を外し、波だけというデザインはいただけない。旗屋さんが伝統を忘れてしまったのだろうか? それともかき氷を売ってる店に、それを指摘する知識がないのだろうか? そういえば氷旗を扱っている通販サイトを覗くと、千鳥がついたもの、ないものの両方が見本として掲載されている。実に嘆かわしいことだ。些細なことかもしれないが、些細なことに拘ることが伝統を守るということではないだろうか。千鳥を配しないなら、いっそのこと、波も外した新しい氷旗のデザインをして欲しいと思う。

追記:Ryujiさんのコメントを基に「官許氷龍紋氷室」をキーワードにして検索したところ、下記史料に辿り着きました。現在の氷旗に近いデザインの旗の画像が掲載されています。感謝。(8月6日)

Books  皆川重男編著『氷業史資料文献目録』昭和41年5月10日発行(限定100部・非売品・孔版印刷)

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